グリシンと眠りの研究、人の試験でどこまで分かっている?
「寝る前のグリシン」は眠りの話題でよく聞く成分です。人を対象にした試験で何が報告されているのか、どこからがまだ分かっていないのかを整理しました。
- グリシンは体の中でもつくられるアミノ酸で、コラーゲンに多く含まれる
- 寝る前に3gをとった小規模な試験では、翌日の疲れの感じ方が軽くなったと報告された
- 眠りそのものが深くなるかは、大きな試験ではまだ確かめられていない
寝る前のグリシンについて、人の試験で報告されているのは「翌日の疲れや眠気の感じ方が軽くなった」という小規模な結果までです。眠りそのものが深くなるかどうかは、大きな試験ではまだ確かめられていません。
グリシンはアミノ酸(たんぱく質をつくる部品)のひとつで、体の中でもつくられます。コラーゲンに多く含まれ、日本ではサプリメント(食品)としても売られています。
人の試験では、何が報告されている?
よく引用されるのは、日本の企業の研究チームが2012年に発表した試験です。健康な人の睡眠時間を、ふだんより25%短くした状態を3晩続けました。寝る前には、グリシン3gかプラセボ(見た目は同じで中身のない粉)を飲んでもらっています。グリシンを飲んだときは、翌日の疲れの感じ方が軽くなり、眠気も軽くなる傾向がありました。反応の速さを調べるパソコンのテストでも、成績がよくなっていました。ただし、参加した人数は論文の要旨に書かれておらず、この記事では試験の規模を確かめられませんでした。
同じチームは、眠りにくさを感じている人が寝る前にグリシンをとると、眠りの質の自己評価がよくなったとも報告しています。ただ、この元の試験は今回の確認に使った医学論文のデータベースでは見つからず、同じチームの解説論文で内容を確かめました。
2026年には、これまでの研究を広く集めて整理した論文が出ました。グリシンと眠りを調べた人の試験は、3本だけでした。3本ともどこかの項目で良い結果を報告していましたが、著者たちは、より大きく、測り方をそろえた試験が必要だとしています。
| 調べたこと | 根拠 | 結果 |
|---|---|---|
| 翌日の疲れ・眠気の感じ方(睡眠を短くした健康な人・3晩) | 根拠 初期 | 疲れが軽くなり、眠気も軽くなる傾向(1試験) |
| 眠りの質の自己評価(眠りにくさを感じる人) | 根拠 初期 | よくなったと報告(企業の研究チームの試験) |
| 夜中に目が覚める回数(コラーゲン15g・若い男性13人) | 根拠 有望 | 減った。眠りの長さ・寝つきは差なし(1試験) |
| 血液中のグリシンの量(グリシン・コラーゲンをとったとき) | 根拠 初期 | 増えた(14試験の整理) |
| 体温が下がって眠りに入りやすくなるしくみ | 根拠 動物 | ネズミで確認。人では確かめられていない |
なぜ眠りに関わると考えられている?
しくみは、主にネズミの実験で調べられています。ネズミにグリシンを飲ませると、足の裏の皮膚の血流が増えて熱が外に逃げ、深部体温(体の中心の温度)が下がりました。同時に、眠りに入るまでの時間が短くなりました。
人は眠りに入るとき、深部体温が少し下がります。グリシンはこの流れを後押しするのではないか、と研究者は考えています。ネズミでは、脳の中で体内時計をつかさどる場所が関わっていることも分かってきました。ただし、これはネズミでの話です。人で同じことが起きているかは、確かめられていません。
コラーゲンでも同じことが言える?
コラーゲンにはグリシンが多く含まれます。英国の試験には、運動習慣があり、眠りに悩みのある若い男性13人が参加しました。寝る前にコラーゲンの粉末15gかプラセボを、7晩ずつとっています。コラーゲンのときは夜中に目が覚める回数が少なくなりましたが、眠りの長さや寝つき、眠れていた割合には差がありませんでした。この試験は素材を提供した企業の社員が著者に入っています。
2026年の整理論文によると、コラーゲンなどをとると血液中のグリシンが増えることは確かめられています。ただ、それが眠りの変化につながっているかは、直接調べられていません。
では、どうすればよいか
グリシンは研究の途中にある成分です。眠りの悩みには、寝る時間や寝室の環境を見直すことが先になります。
- まずは寝る時間・寝室の温度や明るさ・寝る前の画面など、生活の見直しから
- 試すなら、研究の途中にある成分だと知ったうえで。人の試験で使われた量は、寝る前に3gでした
- 持病がある方、薬を飲んでいる方、妊娠中・授乳中の方は、先に医師か薬剤師に相談する
- 眠れない日が続く、大きないびきがある、昼間に強い眠気がある場合は、サプリメントより先に医療機関へ
詳しく知りたい方へ(研究の中身)
| 睡眠を短くした試験(Front Neurol 2012) | 健康な人の睡眠を通常より25%短くした状態を3晩続け、寝る前にグリシン3gかプラセボ。翌日の疲労感(視覚的評価尺度)が有意に低下、眠気は低下傾向、精神運動覚醒検査の成績が改善。同じ論文のネズミの実験では体内時計の遺伝子に変化なし。人数・割り付けの方法は抄録に記載なし。著者は食品企業の研究所に所属 |
|---|---|
| 企業研究者による解説(J Pharmacol Sci 2012) | 不眠傾向のある人で、寝る前のグリシンが主観的な睡眠の質を改善したという自らの試験と、ネズミで血中・脳脊髄液のグリシンが増え、皮膚の血流増加とともに深部体温が下がった結果を解説。著者は食品企業に所属 |
| しくみの研究・ネズミ(Neuropsychopharmacology 2015) | 経口のグリシンでノンレム睡眠が増え、入眠までの時間が短縮し、同時に深部体温が低下。足の裏の皮膚血流が用量に応じて増加。体内時計の中枢(視交叉上核)を壊すと、睡眠と体温への作用が消えた。食品企業とスタンフォード大学の共同研究 |
| コラーゲンの試験(Eur J Nutr 2024) | 睡眠に不満のある運動習慣のある男性13人(平均24歳)。無作為化クロスオーバー試験で、寝る1時間前にコラーゲンペプチド15gかプラセボを7晩。7晩目の終夜睡眠ポリグラフ検査で覚醒回数21.3回対29.3回。睡眠時間・入眠潜時・睡眠効率・深部体温は差なし。素材は資金提供者が供給し、同社の社員2名が著者 |
| 研究の整理(J Diet Suppl 2026) | 2026年7月までの22試験を整理したスコーピングレビュー。14試験でグリシン・コラーゲンなどの摂取後に血中グリシンが増加(用量依存の傾向)。グリシンと睡眠の試験は3本で、3本とも少なくとも1項目で良い結果。コラーゲンの睡眠への作用がグリシンによるものかは直接検証されていない |
- Bannai M, et al. The effects of glycine on subjective daytime performance in partially sleep-restricted healthy volunteers. Front Neurol. 2012. PMID 22529837
- Bannai M, Kawai N. New therapeutic strategy for amino acid medicine: glycine improves the quality of sleep. J Pharmacol Sci. 2012. PMID 22293292
- Kawai N, et al. The sleep-promoting and hypothermic effects of glycine are mediated by NMDA receptors in the suprachiasmatic nucleus. Neuropsychopharmacology. 2015. PMID 25533534
- Thomas C, et al. Collagen peptide supplementation before bedtime reduces sleep fragmentation and improves cognitive function in physically active males with sleep complaints. Eur J Nutr. 2024. PMID 37874350
- Fan Z, et al. Glycine Bioavailability and Sleep-Related Outcomes Following Oral Glycine and Collagen Supplementation: A Scoping Review. J Diet Suppl. 2026. PMID 42687500
この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。












